朝7時、広告の管理画面を開くと、前日のROASは目標の倍を超えていました。
それなのに、月末に締めた利益は前の月より落ちていました。
広告を売上で評価している限り、この矛盾は消えません。
ROASが合っているのに儲からないのは、計算が間違っているからではないんです。
見ている数字が、利益と関係のない数字だからです。
ROASとは、広告費に対して何倍の売上が返ってきたかを示す指標のことです。売上÷広告費で計算します。
この式のどこにも、原価も送料も決済手数料も入っていません。
だからROASは、粗利率の高い商品が売れても、低い商品が売れても、まったく同じ数字になります。
広告は粗利で評価してください。
売上ベースのROASを粗利ベースに置き換えるだけで、止めるべき広告と伸ばすべき広告は入れ替わります。
私たちの場合、入れ替わったのは1本や2本ではありませんでした。
目次
なぜROASが目標を超えているのに利益が残らないのか
ROASが売上しか見ていないからです。
売上の中身、つまり原価率も送料も決済手数料も返品も、この指標の外側にあります。
粗利率45%の商品と18%の商品が同じ売上を出したとき、ROASの数字は完全に一致します。
手元に残るものは倍以上違います。
広告運用でよく起きるのは、次の流れです。
ROASのいい広告に予算を寄せる。
その広告は、単価が低くて回転の速い商品を売っている。
単価が低い商品ほど、送料と決済手数料が売上に占める割合は重くなる。
売れば売るほど、全体の粗利率は下がっていく。

ROASは上がり、利益は減ります。
もう一つの穴が、送料無料ラインです。
一定額以上で送料無料という設定を置いている場合、その境目をまたぐ注文は、売上が増えているのに手元に残る粗利が減ります。
まとめ買いを促す広告ほど、この境目をまたがせます。
ROASの画面には、その動きが一切映りません。
粗利率は商品ごとにそこまで変わらない、と思うかもしれません。
実際、単一カテゴリだけを扱っていて原価率がほぼ揃っているなら、その通りという面はあります。
ただ、セット商品、まとめ買い、値引きクーポン。
この3つのどれかを使った時点で、同じ商品でも注文ごとの粗利率は動きます。
広告が集めているのは売上ではなく、注文の中身です。
広告を粗利で評価するとは、具体的に何を計算することか
粗利ROASを出すことです。
粗利ROASとは、その広告経由の注文から生まれた粗利を広告費で割った数値のことです。式は「(売上 − 原価 − 送料 − 決済手数料 − 値引き)÷ 広告費」になります。
1.0を下回った広告は、売れば売るほど赤字が増えています。
必要なデータは4つだけです。
- 広告媒体ごとの日別の広告費を取り出す。
- 受注データを広告媒体別に分ける。
- 商品ごとの原価を注文明細に当てる。
- 送料・決済手数料・値引きを注文単位で引く。
この4つが揃えば、広告の良し悪しは1行で判断できます。
難しいのは計算ではなく、揃えるまでの作業です。
私たちは最初、毎朝これをスプレッドシートでやっていました。
媒体の管理画面を3つ開いて広告費を写し、カートから受注CSVを書き出し、商品マスタの原価を関数で当てて、送料区分を手で振り分ける。
1日あたり25分から40分。
注文が伸びた月は1時間を超えました。
そして、この作業は必ずどこかで間違えます。
粗利を毎日見える状態にするところまでの手順は、ECの粗利が月末までわからない理由と、毎日見える状態にする方法にまとめています。
売上ベースと粗利ベースで、判断はどこまで逆転したか
逆転しました。
売上ベースのROASで上位3本に入っていた広告のうち、2本は粗利ベースにすると下位へ落ちました。
逆に、停止候補に入れていた広告が、粗利ベースでは全体の2番目に上がりました。
止めた広告が、粗利率のいちばん高い商品を売っていた
順番はこうでした。
ある月の初め、ROASが目標に届かない広告を1本止めます。
コンバージョンは取れているのに数字が伸びない、低単価の商品を中心に売っている広告でした。
止めた翌週、月の途中で粗利を出したら、粗利額が前の週より落ちていた。
止めたのは、粗利率のいちばん高い商品が売れていた広告でした。
そのとき担当者が言った一言を、今も覚えています。
「数字は毎日見てたのに」。
見てはいたんです。
見ていた数字が、利益とつながっていなかっただけでした。
過去3か月・約4,000行を手で当て直して、10本中4本の順位が入れ替わった
そこから、受注CSVを媒体別に割って、原価と送料と決済手数料を当て直しました。
過去3か月分、注文明細でおよそ4,000行。
手作業で2日かかっています。
出てきたのは、ROASの順位と粗利ROASの順位がほとんど一致しないという結果でした。
上位と下位が入れ替わった広告が、10本中4本。
3か月、間違った順位で予算を配っていたことになります。
粗利ベースの評価は、手作業でどこまで続けられるか
媒体2つ、商品点数100点以下、1日の注文50件以下。
この範囲なら、スプレッドシートで週1回の集計は回ります。
どれか一つを超えた時点で、集計の頻度が落ち、判断が遅れはじめます。

1日50件を超えた月に、集計は週2回まで落ちた
| いまの状態 | 手作業でかかる時間 | 実際に起きること | 判断 |
|---|---|---|---|
| 1日20件未満/媒体1つ/原価率がほぼ一定 | 週1回15分 | ズレが出ても翌週には気づける | スプレッドシートで足りる |
| 1日50件前後/媒体2つ/セット商品あり | 毎日25〜40分 | 更新が週2〜3回に落ちる | 集計だけ自動化する |
| 1日100件超/媒体3つ以上/クーポン併用 | 毎日60分以上 | 月末を過ぎるまで粗利がわからない | 受注と広告費の連携が必要 |
| 複数モール+自社/同一商品で販売価格が違う | 集計が追いつかない | 赤字の広告が1か月放置される | 手作業では成立しない |
自動化するほどの規模ではない、と思うかもしれません。
実際、1日20件までなら手で数えたほうが速いという面はあります。
ただ、判断が遅れて失うものは規模に比例しません。
赤字の広告を1か月放置すれば、消えるのは1か月分の広告費まるごとです。
規模が小さいほど、その1か月は重い。
この限界の出方は、受注管理がスプレッドシートで回らなくなる形とまったく同じです。
件数ではなく、条件の数で壊れます。
ECの受注管理をスプレッドシートで続けられなくなる4つの分岐点で書いた分岐点と、広告の集計が壊れる場所はほぼ重なりました。
「ROASで足りている」と考えたまま放置すると何が起きるか
粗利率の低い商品に予算が集まり、売上が伸びたまま利益だけが落ちます。
厄介なのは、この状態がROASの画面では健康そのものに見えることです。
異常に気づくのは月次を締めたあと、早くても翌月の中旬になります。
私たちが見た並びは、この順番でした。
ROASのいい広告に予算を寄せる。
低単価商品の注文比率が上がる。
1件あたりの送料と決済手数料の負担が重くなる。
全体の粗利率が2〜3ポイント下がる。
売上は伸びているので、誰も止めない。
気づいたとき、判断材料は3か月分ずれていました。
媒体の自動入札に任せているから大丈夫、と思うかもしれません。
実際、媒体のアルゴリズムはコンバージョンを増やす方向には正確に働くという面はあります。
ただ、媒体は原価を知りません。
渡していない情報で最適化されることは、絶対にないんです。
粗利で入札を動かしたいなら、粗利のデータを自分の側で作って渡すしかありません。
毎朝の管理画面チェックそのものをやめた話は、広告の管理画面、毎日見るのやめませんか?
広告成績の分析を全自動化してみたに書いています。
結局、広告は何を見て判断すればいいのか
粗利ROASが1.0を割った広告を止める。
判断はそれだけです。
売上ベースのROASは、粗利ROASを出すまでの途中経過として見ておけば足ります。
順位が入れ替わるのは年に一度の話ではありません。
原価が動けば、クーポンを打てば、その週に入れ替わります。
最初にやるべきなのは自動化ではありません。
過去1か月分の注文明細に原価を当てて、媒体別に粗利を出す。
1回だけ、手でやってみてください。
半日から2日かかりますが、そこで順位が入れ替わらなければ、今のやり方を続けて問題ありません。
入れ替わったなら、それは毎月起きています。
私たちは、その1回で順位がはっきり入れ替わったので、仕組みを作りました。
作ってから、朝7時に管理画面を開く習慣はなくなりました。
よくある質問
ROASと粗利ROASは、どのくらい数字が違いますか
粗利率がそのまま差になります。
粗利率30%の商品構成なら、売上ベースのROASが5.0でも、粗利ROASは1.5前後です。
ここからさらに広告以外の固定費を引くので、ROAS 5.0は「儲かっている」と言い切れる水準ではありません。
目標値を決めるときは、粗利ROASが1.0を割らない広告費の上限から逆算してください。
原価が商品ごとにバラバラで、当てるだけで大変です
全商品に当てる必要はありません。
売上上位20商品で全体の8割前後を占めるのが普通なので、まずその20点だけ原価を入れてください。
残りはカテゴリ平均の原価率で埋めれば、広告の順位が変わるほどの誤差にはなりません。
完璧な原価表を作ろうとして途中で止まるのが、いちばんもったいない進め方です。
広告媒体の管理画面に、粗利を表示させることはできますか
媒体側の設定だけでは表示できません。
原価は自社の受注データの中にしか存在しないためです。
手順としては、媒体の広告費と自社の受注データを同じ場所に集め、注文単位で粗利を計算し、媒体別に合計します。
計算した粗利額をコンバージョン値として媒体へ送り返せば、自動入札を粗利基準で動かすところまで持っていけます。